マーケティング
2019.03.04
アマゾンの「プライム・ワードローブ」が他の試着サービスより優れている点
業界最大手のECサイトであるアマゾンは、昨年の10月よりプライム会員向けのサービスとして「プライム・ワードローブ」を開始した。いわゆるアパレル試着サービスの一つだが、アマゾンならではの特徴を生かした強力なサービスとなっていくかもしれない。
ECにおける返品の常態化
アマゾンのプライム・ワードローブは、元々ECにおける高い返品率に対処するために生まれたという背景がある。日本での返品率は比較的低いが、イギリスやアメリカでは従来より通販の返品文化が根強く、Eコマースにおいてもその傾向は変わらない。
https://www.ryutsuu.biz/strategy/j083102.html
流通ニュースの記事「ネットショッピング/日本は小売・配送が高品質、低い返品率」で紹介されている調査によると、イギリスではネットトラブルにあった消費者が半数近くいるのに対し、日本では3割程度にとどまっているという。日本で返品対応件数が少ない理由として、日本人の事なかれ主義的な文化性が関係しているからとも考えられる。返品率の高いイギリスやアメリカでは、返品を前提とした買い物をオンラインでも行なっているため、結果的には小売業者が返品コストに悩まされているのが現状だとも言えるだろう。返品を断ったり負担を利用者に負わせようものなら、売り上げが著しく減退してしまう可能性もあり、現地の経営者は難しい選択を迫られているのだ。
https://netshop.impress.co.jp/node/5591
ファッションアイテムも扱うアマゾンがいち早く米国でプライム・ワードローブを展開したのも、ユーザーの返品前提の消費文化に沿う形でサービスを提供するためだったと言えるだろう。
プライム・ワードローブの強み
欧米圏における返品文化に対処するため、現地ではサブスクリプション制の月額試着・レンタルサービスが次々と展開されている。プライム・ワードローブはこういったサービスと比較して、どのような点を強みとしているのだろうか。
7日間無料で試着可能
まずプライム・ワードローブの特徴として、サービス利用者は無料で自宅まで気に入った服を送ってもらい、7日間自由に試着できるという点が挙げられる。通販サイトのマガシークも返送料無料の同サービスを10月より開始しているが、こちらはサービス利用の際に1円が発生する。
https://www.magaseek.com/static/cont/id_HENPIN
1円程度の差であれば大したことはないかもしれないが、マガシークの場合は新規ユーザーに対して会員登録や決済情報の入力を強いてしまうことになる。
一方試着が無料で行えるプライム・ワードローブの場合、決済時に支払いが発生しないため心理的な負担が小さい。そしてそもそもアマゾンには膨大な数のユーザーがアカウント登録しているため、プライム・ワードローブのような新サービスも、面倒な手続きなしに利用できるのが大きなメリットとなっている。
返品コスト対策が万端
世界各国でECを展開するアマゾンは、返品コスト管理に関するノウハウも充実している。元々返品文化の根強いアメリカで誕生したサービスであり、現在もプライム会員には送料無料で発送を行なっている以上、流通にかかるコスト対策はジャンルを問わないその圧倒的な購買によって、十分に賄われていることが考えられる。
むしろプライム・ワードローブのように返品を前提としたサービスを展開し、返品手続きの案内のを予め商品に同梱することや、システム上でスムーズに返品処理がなされるといった顧客一人一人の個別対応をシステムの自動化やチャットボットによって効率化することで、ユーザー満足度の向上と同時に返品にかかるコスト圧縮に成功していると言える。
返品データ収集による顧客満足度向上への動きも
アマゾンが得意とするのはその膨大なユーザー数を背景としたビッグデータの活用も挙げられるが、プライム・ワードローブによって返品された商品のデータを収集し、その顧客に最適化されたリコメンドを送信する精度向上にも役立てていると考えられる。ユーザーが直接購入した商品だけでなく、迷った色やサイズなども試着サービスによって可視化されるため、パーソナライズの精度はより高いものとなるのだ。
巨大なアマゾンだからこそできる試着サービス
このように大掛かりな試着サービスを展開できるのは、やはりアマゾンのような資本力と組織力のある企業だからこそ可能だと言えるだろう。ECにおける送料無料の流れを作ったのは間違いなくアマゾンだが、プライム・ワードローブの拡大によって試着・返品も無料のトレンドをも形成しようとしているのである。
「返品無料は当たり前」の時代にどう向き合うか
ただ、送料無料の時代で送料をユーザー負担で貫いているZOZOTOWNの例にもあるように、必ずしも配送費用だけで消費者は利用するサービスを選んでいるわけではない。
アマゾンは自社を利用する付加価値として流通コストゼロの買い物を提供しているだけであり、その他のECサイトもまたそれに匹敵する付加価値を用意すれば十分に対抗していくことは可能だろう。