マーケティング
2019.03.27
ECサイト関係者が注目すべき2019年のファッションテック~その2~
自社で企画・製造を行なった商品を直接消費者へと販売するDirect to Consumer、通称D2Cは、現在ファッション市場を中心に国内でも注目が集まり始めている。
D2Cは海外でこそスタートアップビジネスの一ジャンルとして確立されているものの、日本では未だその認知度は海外ほどではない。しかしそれでも日本初のD2Cスタートアップは知名度が高まりつつあり、2019年以降は既存D2Cのさらなる活躍や、新たなブランドが続々と誕生するのではと期待が寄せられている。
国内のD2C企業について
前回はラルフローレンの国内旗艦店が日本のテック企業とコラボレーションを行うことでD2Cを実現していたケースを紹介したが、今回は国内初のスタートアップをいくつか紹介しておきたい。
FABRIC TOKYO
La Fabricから名前を変えて生まれ変わったFABRIC TOKYO(ファブリック・トーキョー)は、最高の品質を最適な価格で提供するということをモットーにするオーダーメイドスーツショップだ。
一度リアル店舗で採寸を行えば採寸データがクラウド上に保存され、オンラインでも好きなスーツをオーダーすることができるというサービスを提供している。これまで敷居が高いとされてきた、オーダーメイドのビジネススーツを気軽に手に入れることが可能となったのだ。
メイドインジャパンにこだわりながらもリーズナブルな価格に抑えられているのは、原料の調達から実際にスーツを仕立てるまでの中間業者を廃し、製造現場から顧客へのルートを最短で結んだことが大きい。
ユーザーが直接服のデザインをカスタマイズできる仕組みを提供するUnmade同様、ショップと製造工場が共通のデータベースを活用することで、迅速かつミスのない発注を可能にしている。消費者と製造者の間に第三者を解さないことで、高いコストパフォーマンスも実現している点も注目だ。
また、スーツの製造過程に携わる全ての業者の負担が分散されているため、ファストファッション業界のように一部の業者に負担が偏ってしまうことを最小限に抑えている。そしてそのことはユーザーに対して可視化されている。いわゆるこのようなサステナビリティとトレーサビリティの実現も、D2Cのメインターゲットとされるミレニアル世代が要求するの、高い社会性に則る取り組みと言えるだろう。
objects.io
D2Cスタートアップは衣類だけでなく、アクセサリーの分野でも伸長しつつある。「イノベーターの日々を支える」をキャッチコピーにするobjects.io(オブジェクツアイオー)は、日本の老舗製鞄所である土屋カバンの職人が中心となって始めた、革製品のD2Cスタートアップだ。
昔ながらの高級革製品を少しでも手軽に、そして多くの人に利用されるための工夫が充実している。オフィス一体型のショールームと、ECサイト展開で実店舗にかかるコストを抑え、製品の価格に還元しているのだ。
独自に組み上げた高度なシステムを予算を投じて導入するのではなく、ECサイトの活用や店舗のコストカットによって低価格化を実現している点は汎用性が高い。これはシステム開発に余裕のない企業でも取り組みやすい。顧客からの声にも柔軟に応え、積極的にPDCAサイクルを回していくことで時代に必要とされる製品作りを続けるのがこのブランドだ。
D2Cはカスタマーの要望がじかに商品へと反映されるビジネス形態だが、常に顧客の声と隣り合わせという環境は、時代やニーズに合った商品提供を継続的に行なっていく上でも非常に有効な形態となってくれるはずだ。
また、土屋鞄製造所は60年代からカバン作りを続けてきた老舗のため、ミレニアル世代より上の年齢層からの信頼も獲得している。そのため、D2Cを若者以外の中高年層に定着させるきっかけとして、objects.ioが大きな役割を担う可能性もあるだろう。
https://www.tsuchiya-kaban.jp/
Knot
Knot(ノット)もまたアクセサリーを取り扱うD2Cスタートアップだが、こちらは腕時計を専門とするブランドだ。
はD2Cの分野で語られることは少ないものの、リーズナブルにオーダーメイド腕時計を組み上げ、そのバリエーションはおよそ1万通りにものぼるという、カスタマイズ性の高さが特徴のブランドだ。日常的に身につけることの多いアクセサリーでありながら、既製品の腕時計はカスタマイズ性に乏しい点に注目。Knotでは腕時計本体のデザインはもちろんのこと、ベルト部分の素材や色などあらゆるパーツを自由に組み上げることができる。
これまで腕時計を買うにあたって、微妙な配色の趣味の合わなさに頭を悩ませてきた人も、Knotであれば好みに合わせたデザインでお気に入りの一本を購入することが可能だしかも、Knotの製品は市場価格の3分の1を実現しており、これも中間流通を廃したD2Cモデルを確立し、流通コストを小さくしたことがその要因として大きい。
またKnotの公式サイトでも触れられている通り、日本製品の質の高さは国内外を問わず評判を獲得しているため、日本の製造業者が直接カスタマーへと商品を送り届けるD2Cは、ブランディングの面でも良い印象を与えやすい。
産地直送というフレーズが生鮮食品のキャッチコピーとして広く受け入れられているように、今後は製造業でもD2Cが今までにない付加価値としてその地位を確立していくであろう。
D2Cはアパレルのスタンダードになるかもしれない
D2Cの浸透は、製造・販売側のコストや流通経路の見直しを後押しする。現在一般的なのは既存システムの見直しによるD2Cの実現だが、Unmadeのようなデザインカスタマイズ機能や、データを直接衣類にプリントアウトできるガーメントプリンタが安価になっていくことで、D2C形態のアパレルへの新規参入者も増加していくことになるだろう。
D2Cはファッション市場における、次世代のスタンダードとなる可能性を秘めているのだ。