ECニュース解説

2016.09.16

アパレルECにおけるO2Oビジネスの可能性:EC限定ブランド「CITERA」(シテラ)の事例から

EC限定のメンズブランド「CITERA」(シテラ)が始動

 

 

繊研新聞 2016年9月6日発行

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ヤマトインターナショナル株式会社(本社大阪府、盤若智基社長)は9月1日、オンライン限定のファッションレーベル「シテラ(CITERA)」の公式サイトを公開。ECサイト上でのみ販売するメンズブランドとして、原則として展示販売をせず、ウェブサイトやSNSを利用したマーケンティングを行うという意欲的な試みだ。

 

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同社は、これまで主力の一つに位置づけられていたフランスのアウトドアブランド「エーグル(AIGLE)」とのライセンス契約の早期終了を5月に発表したばかり。2017年に創業70年の節目を迎えるのを機にビジネス線略の見直しを進めるなか、この「シテラ」を主力事業として確立したい考えだ。本稿では、「シテラ」の概要について紹介しつつ、この試みの意味するところを、アパレルECによるO2Oビジネスの可能性と絡めながら考えてみたい。

 

 

ヤマトインターナショナルと「シテラ」の概要

ヤマトインターナショナルは、主にメンズカジュアルウェアの企画から販売までを行う1947年創業の老舗アパレルメーカー。主力商品である、ワニをトレードマークとする「クロコダイル(CROCODILE)」シリーズは、50年以上もの歴史をもつブランドとして広く知られている。そんな同社が中期構造改革の主軸事業として立ち上げたのが、メンズファッションブランド「シテラ」だ。

「シテラ」がターゲットとするのは都市で生活する30代から40代の男性。機能性の高いハイテク素材を使用しているのが特徴で、バッグやアウター、スウェットなど、アイテム数は限定的ながら、いずれも同社の従来のラインナップにはない存在感を放っている。

それもそのはず、クリエイティブ監修に、かつてクリエイティブディレクターとしてビームス(BEAMS)の躍進を支え、現在はコンサルティング会社「LOWERCASE」を主宰する梶原由景氏を、ディレクション担当には、「ビズビム(visvim)」の創業メンバーの一人で、独立以後もデザインや企画・マーケティングの第一線で活躍してきた永直樹氏を起用。同社がこの新事業にどれ程注力しているかがわかるというものだ。

 

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クリエイティブディレクターに起用された梶原由景氏(右)とディレクターに起用された永直樹氏(左)

 

 

EC限定ブランドの成功事例「ボノボス」

ところで、オンラインのみで展開する本格的なECの例としてまず思い浮かぶのがアメリカのアパレルブランド「ボノボス(BONOBOS)」だ。「ボノボス」は、スタンフォード大でMBAを取得した二人が2007年にシリコンバレーで立ち上げたというユニークな出自を持つ。ブランディングからマーケティングまで全てをオンラインで行い、パンツのみの商品ラインナップで、ECサイト公開から半月の間に40,000ドルを売り上げ、創業から3年で年商1千5百万ドルのビジネスにまで育て上げたという実績を持つ。

 

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現在、「ボノボス」はアメリカ国内に27の店舗を設置している。ただしこれらは「ガイドショップ」と呼ばれ、来店客は商品を試すことがはできるが、その場で購入することはできない。気に入った商品があれば、販売員もしくは来店客がその場でECサイト経由で購入手続きを行うというユニークなもの。商品の到着は最短で翌日。購入から45日以内なら返品も可能だ。またスタイリストによるフィッティングガイドを受けることもできる。

 

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「シテラ」は日本の「ボノボス」となれるか?

「シテラ」が「ボノボス」の展開するビジネスモデルをある程度意識していることは間違いなさそうだ。9月2日から3日限定で設置された「スペシャルリミテッドストア」は「ボノボス」の「ガイドショップ」そのものだし、「イメージが違う」「サイズが合わない」と言った場合の返品も、7日間ながら「ボノボス」同様、無料で受け付けている。ヤマトインターナショナルがこの度の構造改革のキーワードを「ハードからソフトへの変革」としている通り、今後は顧客に寄り添ったサービスをどこまで充実できるかが「シテラ」成功の鍵を握ることになるだろう。

 

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アパレル業界に限らず、ECを取り巻く状況は、O2Oマーケティングやオムニチャネルといった言葉に牽引される形で、オンラインとオフラインとが垣根をなくす方向で大きく舵取りされている。陳腐な表現ではあるが、とりわけ衣料品の場合、物理的な小売形態がいまだ顧客にとってより利点がある状況だ。

そんななか、EC特化型ブランドというと、まるで時代に逆行した存在のように見えるかもしれないが、むしろこうした状況を逆手に取ることもできるはずだ。店舗への来店客は、ノルマを持たない販売員のガイドのもと、プレッシャーを感じることなくフィッティングを行い、そのうえ手ぶらで帰れて、翌日には送料無料で自宅に商品が届く。販売員はコンシェルジュ的な立場に徹することで、接客の質を向上させることにもなるだろう。O2O戦略は、EC限定ブランドがその利点を最大限に活用しながら、効率的なビジネスの可能性を模索するチャンスになりうるというわけだ。「オフラインは絶対にやらない」と言っていた「ボノボス」がガイドショップをオープンしたように、「シテラ」もまた、今後は様々なチャネルと結びつく柔軟な方向修正が必要になることだろう。

 

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