マーケティング
2018.07.24
競合から協業へ ー アパレルECが模索しうる一つの可能性
画像引用元:MAGASEEK
シューズを中心にアパレル商品のネット通販を手がけるロコンドが、業界第3位のマガシークと相互出店で合意したことを発表した。本来、ライバルであるはずのアパレルEC同士が協業へと歩み始めた現状について概説しながら、アパレルECが模索しうる一つの可能性について考える。
<マガシークがロコンドと提携>
画像引用元:LOCONDO.jp
2018年4月19日、女性向けの衣料品を取り扱うアパレルEC「MAGASEEK」を手がけるマガシーク株式会社(代表取締役社長:井上 直也)が、ファッションECサイトである「LOCONDO.jp」を運営する株式会社ロコンド(代表取締役社長:田中 裕輔)と、相互出店に関する契約を締結したと発表した。マガシークは「MAGASEEK」のほか、やはり女性向けのアウトレット商品を販売するアパレルECサイト「OUTLET PEAK」や、NTTドコモともに共同運営を行っている「d fashion」を抱える業界第二位の大手だ。
豊富なシューズの在庫を有するロコンドと提携することにより、マガシークはこれまで手薄だったカテゴリーの商品を大幅に充実させることになる。具体的には、およそ1,800ブランド、17万点の商品が「MAGASEEK」と「d fashion」のラインナップに追加されることになる。同じメリットは「ロコンド」にもあり、これまで扱ってこなかったおよそ230ブランド、8万点の商品の取り扱いができるようになる。
今回の相互出店により、従来にも増して迅速な商品の配送も可能になる。例えば、「ロコンド」が在庫保有する商品を「MAGASEEK」において受注した場合、「MAGASEEK」から「ロコンド」に配送先の情報が伝えられ、商品はいったん「MAGASEEK」側に引き渡されることなく、「ロコンド」の倉庫から直接購入者へと配送される。いわゆるドロップシッピングが可能となるためだ。その後、「MAGASEEK」は「ロコンド」から出荷済みの連絡を受けて、各ブランドに下代を支払う。
同サービスは2018年の夏をめどに開始される予定で、正価で販売される商品はすべてを返品送料を無料とし、一部のセール品に関しては返品不可とすることになるという。
相互出店の背景にあるのは「対ZOZO」
今回の相互出店は、商品ラインナップを充実させるだけでなく、業務の効率化にもつながる両者にとって実りの大きい戦略といえるが、それ以上に大きな意味がある。ファッションEC業界では現在、ZOZOTOWNがトップを独走。業界2位の「マルイウェブチャネル」のおよそ10倍の取引額を誇る。こうした取引額の違いによって、販売力が高いZOZOTOWNにメーカー在庫が流れやすく、他のECでは品薄状態になるなどの問題を生じさせている。ロコンドはそうした市場内の不均衡を緩和すべく、かねてより対ZOZOTOWN網を敷こうとアパレルEC各社との業務提携や資本提携、M&Aなどを推し進めてきた。
今回の相互出店もそうした戦略の中に位置づけられるもので、業界3位のマガシークとの協業によって、ロコンドが中心となって進めようとしている「圧倒的な2位グループ」の構築への第一歩となるものといえるだろう。
この目論見がどの程度成功するかは未知数だが、「さまざまなアパレルECに商品を提供することで、在庫が分散することを回避したい」という声がブランドから上がっているのは事実。相互出店によってマガシークやロコンドは豊富なアイテムを展開できるし、消費者にとっては従来よりもシームレスに、しかも迅速に商品を手に入れられるというメリットが生まれる。加えて、ブランド側にとっても、労せずして在庫分散を軽減できるという利点があるというわけだ。アパレルEC同士の相互出店は、まさに三方良しの戦略であるといえるだろう。
協業が進むアパレルEC
アパレルECが協業する動きは、さまざまな領域に広がっている。例えば、物流の分野で顕著なのが、ヤマトホールディングスが展開している「Fittingステーション」だ。アパレルECで購入した商品の受け取りや、試着を行うことができるというもので、期間限定ながらこれまでに三陽商会やディノス・セシール、ユナイテッドアローズなど、6社が参加。仕事などの都合で配達が可能な時間帯に帰宅できない人の間で好評を得ているようだ。
また、ファッションレンタルサービスを提供している複数の企業が、2018年4月12日から5月15日まで、期間限定で合同キャンペーンを実施。「SHAREL」を展開するK-GOLDインターナショナル社(代表取締役社長:横田 光夫)、「EDIST. CLOSET」を展開する株式会社enish(代表取締役社長:安徳 孝平)ら4社が参加し、期間中に2つのサービスに新規会員登録すると初回利用分が半額になるなど、割引特典を提供するというもので、こうしたサブスクリプション型のサービスでも協業が可能であることを示唆している。
最後に
これまで熾烈な競合を繰り広げてきたアパレルECだが、相互の長所を持ち寄りながら協業することは、ECやブランドはもちろん、消費者にとってもメリットが大きいはずだ。市場の拡大とともに競争がますます激化する中、実りある次の一手を期待したい。