ECニュース解説

2016.08.29

トランスコスモスとスタイラーの業務提携に見るO2Oコマースの将来像

トランスコスモスとスタイラーが業務提携を発表

 

繊研新聞 20160803

 

2016年8月3日、EC業務などを担うBPO大手のトランスコスモスとスマートフォンアプリ開発・運営を行うスタイラー(STYLER)が資本・業務提携を発表した。これによりスタイラーは2018年までにアプリユーザ数を国内外で500万人規模へ成長させる計画だという。本稿ではとりわけ業界の注目が集まるスタイラーの事業内容にフォーカスし、今回の業務提携後の展開について、ECの将来についての所見も交えながら展望していく。

 

スタイラーのサービス特性とO2Oの可能性

 

styler

 

スタイラーは顧客とアパレル実店舗とをチャットを通じてつなぐスマートフォンアプリ「スタイラー」を2015年にローンチ。顧客が洋服の購入を検討する際、実店舗のスタッフに相談できるというサービスが人気を博し、現在では東京や大阪など大都市を中心に、百数十店舗が参加するまでに成長している。

アプリの具体的なサービスの流れとしては、まずユーザがファッションに対する質問や要望を投稿。実店舗のスタッフがそれに応える形で商品をサジェストし、ユーザがそれを気に入れば実店舗に出向き、試着・購入に至るという仕組みだ。またユーザと店舗スタッフの対話は全て公開されているため、アプリが商品のショーケースとしての機能を発揮。店舗からのサジェストが契機となって、投稿者以外のユーザを実店舗へと送客することにも繋がっている。さらにアプリ内で展開されたトピックは編集を施した上で、スタイラーが所有するオウンドメディア「スタイラーマグ」や大手ニュースサイトなどで配信される。

アパレル各社がキャンペーンの実施やユニークな顧客体験の創出によって店舗への送客を試みるなか、スタイラーが重視しているのはSNS的な要素。近い将来、店舗スタッフが顧客の漠然としたニーズを拾い上げ適切に対応する、いわばコンシェルジュとして機能できれば、スタッフ個人がユーザの購買意欲をかきたてるインフルエンサーとしての役割を果たすようになるはずだ。そうなれば、自ずとスタッフ個人がロイヤルティの高い顧客を店舗に呼び込むことにつながっていく。実際、スタイラーがターゲットとして想定するのは、深く洋服にコミットし、店舗スタッフとの接客やコミュニケーションを重んじると言われるミドルレンジ層。この8月に店舗スタッフをフォローできる機能がアプリに追加されたことで、スタッフからのレコメンドを受け取ることができるなど、ユーザと店舗スタッフ間のコミュニケーションがより活発になりそうだ。

 

スタイラーの今後の展望と課題

スタイラー最大の魅力は「一枚でサマになるシャツが欲しい」「軽く羽織れるアウターはない?」といった、ネットの検索結果からはこぼれ落ちてしまうようなユーザの抽象的な要望を店舗スタッフが拾い上げる点にある。ECサイトへの直接的な誘導もないわけではないが、そこから顧客を実店舗へと送客し、あくまで質の高い情報を有するショップ店員の見立てを通じて購入に至るという流れに重心を置く。ところが、そのようにオフラインでの送客にこだわれば、登録実店舗が多い都市部以外ではなかなかその特性を発揮しづらいというマイナス面がある。

国内外に大規模なネットワークを持つトランスコスモスとの業務提携は、EC化をより推し進めることを意識してのものであるに違いない。となればビジネスモデルとしてまず思い浮かぶのが、イギリス発のファッションECサイト、ファーフェッチ(FARFETCH)だ。

 

farfetch

 

ファーフェッチは世界中に店舗を構える400超のセレクトショップを集めたファッションモールで、実際に店舗に足を運ばなくても、各店舗が厳選した商品を直接購入できる。SNSを介してお気に入りの店舗をフォローできるなど、店舗と顧客とをつなぐコミュニティとしての機能も持ち合わせることで、完全なECサイトでありながら「セレクトショップで買う」感覚を演出している。ファーフェッチが店舗単位のECモールであるなら、スタイラーが目指そうとするのは店舗スタッフがキーになるECモールであろう。店舗スタッフと顧客とを結ぶファッションコミュニティとしての場をアプリが提供し、両者の関係をより親密なものにできれば、店舗送客のプロセスを割愛したとしても、ファーフェッチのようにサービス特性を維持できるかもしれない。トランスコスモスとの提携によってアプリの対話機能が拡張されれば、ユーザ数500万人というのは決して机上の空論ではないだろう。

トランスコスモスとの業務提携によって、スタイラーが実店舗との対話型O2Oモデルをどう発展させていくかは未知数だ。ただこの先どう転ぶとしても、このことはO2Oコマースだけでなく、ECの可能性について考える上でも重要なモメントとなるはずだ。

 

参考URL:
https://styler.link/
http://www.trans-cosmos.co.jp/
http://www.farfetch.com/jp/

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